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**12月14日**
* * メッセンジャー * * 「ししょーししょーししょー」 薄暗い洞窟にひらりと舞い込むちいさな影。 まさに「手のひらサイズ」の彼の名はポップ。とはいっても、彼の有名な世界を救った大魔道士ポップではない。 世にも珍しい珍獣、…いやいや世界で唯一の魔導生物なのである。 彼のおいたちはなかなかに愉快…いやいや複雑怪奇なもので、大戦後の平和が訪れたころ、現カール国王で元勇者のアバンとその友であり初代大魔道士マトリフによって生み出された。 カール国王アバンが、世界中に散らばる弟子や懇意にしている人々に出来るだけ素早く手紙や書状を送る手段として、彼のような魔導生物を作り出すことを考案し、友マトリフに協力を求めた。そして共同研究の末に実現させてしまったのである。 さて、いざ完成という最終段階で彼らはふと、この生物の姿形を定めていない事に気がついた。それまでは生物の目的柄ただ「メッセンジャー」やら「配達人」やら「あれ」もしくは「それ」と、適当な名称で呼んでいたが、これからはそうはいかない。 なんと言ってもこれにはいまから人格がつく。どうせ造るなら面白いほうが良いと設計段階でふたりはかなり盛り上がった。その他にもいろいろ組み込む予定ではあるがまず基本の基礎を押さえねば。と。 そして元祖勇者パーティの知恵者ふたりは考え抜いたすえにあっさり結論を出した。 各国宮廷へ使いに出しても問題なさそうで、ひとあたりも良く、人気もそこそこあって人にあまり恨まれない性質と云う、なんともぴったりなモデルが手短なところにいるではないか!そうだアイツにしよう!! こうして彼、魔導生物「ポップ(小)」は誕生した。 もちろん、オリジナルである大魔道士ポップ(大)には事後承諾であった…。 しかし、何故彼でなければならないのか。アバンが女の子をモデルにするのはどうかと言ったのだの、ただの師匠バカふたりだの類説はとぶが、やはりただ面倒臭かったからだろうというのが有力とされている。 ポップ(小)がメッセンジャーとして各国で活躍?を始めた頃、案の定オリジナルが師に対し、泣いて抗議したが、一度定めてしまった物は変えられないと言う理由で訴えを却下されたと云うのはまた別の話。 …可哀相に。 まあともかくだ。手のひらサイズの彼は現代の魔力と知恵の粋を集めた世界で唯一1体の生物なのだ。 「ししょー、いねぇのおー?」 トベルーラでぷかぷか宙に浮きつつ薄暗い洞窟内を探しまわる。 「うん?本当にいねぇのか〜?」 洞窟のなかをふよふよと漂い1周する。 「しーしょーおー?」 マトリフの名を呼んでみるが反応はない。 「……うひひ。ラッキー♪」 マトリフは不在だと確信したポップ(小)は、急に勢いづいた。 ちょっと悪戯していこう!っと思い立ったのである。 勝手知ったるなんとやら、自我が芽生え始めたころから自分で動けるようになるまでの半分の時間、自分はここで過ごしたのだ。マトリフの大事な隠し棚から秘密の物置きから、ポップ(大)よりこの洞窟を知り尽くしている自負が彼にはあった。 そう、自分ならほかの誰も思いつかない、そして思いがけないところに仕掛けられるのだ!すごい!なんて自分はすごいのだろう!!と、拳を握り締めひたっていると。 ゴンッ べしゃ。 くぉら…、ポップ。 小まこいの、てめえオレの寝床見に来ねぇのはわざとだろ。」 背後から近付く影にポップは気がつかなかった。 すっかり自分に酔いきっていたために、マトリフの杖による一撃をまともに後頭部にくらい床に張り付いた状態で上のセリフを聞くことになってしまった。 「おお?いつまで地面と仲良くしてるんだ?お前のサイズ考えてちゃんと手加減してやってるんだぜ、オレは。」 まったく、欝陶しくておちおち昼寝も出来やしねえ…。 マトリフはそう愚痴ってポップをつまみあげると文机のある部屋へ運んでいった。 「で、アバンが何だって?」 布をしいた籠のなかにポップを放り込んでマトリフはどっかりと椅子に座りこんだ。 物の上に物が積み上がっている混沌とした机上で唯一、そこ籠だけが机と水平に接している。実はこれが魔導生物ポップのここでの定位置であり、まだ制作時の彼の寝床であった場所でもあった。 「へ〜い、師匠。これっス。」 まだすこし回るあたまを押さえながらポップはアバンからの手紙を渡し、手紙を受け取るかわりに口に放り込まれたべっこう色の飴玉を味わった。 「ひひょふ、へふじくへ〜(師匠、返事くれ〜)」 口いっぱいに飴が入っているのも気にせず、さっそく返事の催促をする。 「…阿呆、待たんか。まだ読んでもねえってんだ。」 封から出した数枚の紙にマトリフは目を通していく。それでもなお口をもごもごいわせながら返事をねだるポップの額をこんどは手加減せず容赦なくはじいた。 「ッいっっって〜〜〜〜ッ! なんらよひでぇ!ししょーのおーぼー!!」 「ィやかましいっ!」 一喝して抗議の声を押さえ、最後の1枚をめくる。 「……ふん、アバンの野郎、相変わらず過保護なやつだ。」 手紙の終わりに添えられた署名とお馴染み似顔絵をみてマトリフは旧くからの友を笑った。 「別にそこまでしなくても良いだろうによ。」 まあらしいがな、とつぶやいて紙にペンを走らせアバンへの返事をしたためはじめた。 「ほれ、書いたぞ。」 マトリフは書き上げた手紙をポップにひらひら見せてから封筒に入れ、蝋封を捺した。 「寄り道するんじゃねえぞ。」 そう言って、封筒を先程のダメージから早くも立直ったポップに渡したが、ポップは一向に動こうとしない。 「……………なんだよ。」 一応、聞き返してはみたマトリフだったがこのポップの言わんとしていることは判っている。…と云うより、このちいさい生き物の言いたそうな事はひとつしかない。 そしてそれはやはり予想通りであった。 「なあ〜師匠、キャンディもいっこくれよー。」 飛び立つどころかどっかり座りこんでいるポップに毎度のことながらマトリフの頭は痛くなる。 「…さっき食っただろ。」 「いや、たんねえ。」 そんなことは無いはずだとマトリフは思った。あれ1個で軽くルーラを1回半は唱えられるくらいのエネルギー分を計算して作ってある。 大戦後のいまの世の中、物資の少ない時でも充分な働きができるよう省エネを目指して造ったコイツなのに、この食い気! 「そのオレンジのやつが良い。」 すでに当然もらえるものだと自分で決めたらしい、こののんきで手のかかる生き物は人の気も知らず、飴玉の入ったガラス瓶を覗きこんで物色しはじめていた。 「誰もまだやると言ってねえだろうがポップ!しっかもなんだ?底のほうにしかない色を選びやがってっ!」 マトリフは瓶をかるく振ってみたが、ポップの言うオレンジ色の飴玉が上にあがってきそうになかった。 「いまのおれの気分ではオレンジのが食いたいんだよ。」 「だから、誰も、オレも、やるとはひとッ言もいってねえ!」 それでもポップねばった。 「師匠のケチ〜。…じゃあそのピンクで良いからさあ。」 彼にしては最大限の譲歩のつもりで、まだ取りやすそうな位置にある色を指した。 「ピンク!ピンク!絶対ピンクー!!」 しばらくの間、無視しようと努めたマトリフだったが、ぎゃいぎゃい騒ぐポップの喧しさに、とうとう根負けしてしまった。 「ええい、うるせえっ! さっさと食ってさっさと寄り道しないで、とっととアバンの所に帰れー!!」 そう怒鳴り散らしたマトリフは適当に振りだした2、3粒の飴玉をポップの口に押し込んだ。 もうけた、とポップがほくそ笑んだのは言うまでもない。 |
『虫』週間、開始。 つづきます。 1年ぶりのメッセンジャーです! 塵も積もれば山といいますか我ながらなかなかの長さです。 驚きです。 ちっくりちっくり現在進行形で書き続けてます。 が、おっ終わらなかったらゴメンナサイ...(苦) by.かつら |
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**12月15日**
ポップさん小・はじめてのおつかい。
ポップさん大・未知との遭遇。
小が食べていたのはポップさんの机から勝手にぱちったお菓子。
by.高雄
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**12月16日**
* * メッセンジャー/2 * * 魔導生物ポップ(小)がマトリフからいつもより多くキャンディをせしめて上機嫌でマトリフの住む洞窟からカール城へ帰った翌日。 平和な日々を楽しみうららかな陽気は心を踊らせる、あの大戦の終わりによって人々が得たそんな平穏はひとりの女性によって打ち破られた。 ―― それは、パプニカ城内から始まった。 風が城内の庭園から花の香りを運んでくる。 テラスに据えられた椅子に腰掛けてその香をかぎつつ、さわり...と草木をなぜて走る風の足音が自分の耳もくすぐり、空の高さあおさに目を細めれば…。 やっぱりこのひとときがなくっちゃね!とパプニカ王国の主、レオナ姫は思った。 「なあー姫さん。」 執務の合間にとる新鮮な空気においしいお茶とお菓子。 それになんと云っても、決済待ちの書類や、今からひかえている立案・懸案、会議。それらをしばらく頭のすみに寄せていられる貴重な時間なのだから。 「…なァー姫さん。」 これも優秀な臣下と良い友人たちに恵まれたおかげよね。 私ひとりで全て執務をこなそうものなら頭はとうの昔にパンクして… 「なあッ!姫さんってば!」 そこでレオナの思考は中断した。 「さっきから何だよ、おれの話ちゃんと聞いてるわけ?」 「聞いてるわよぉー?ちゃんと。」 それこそ頭のはじっこで…とは、さすがに口にはしないけど。 レオナはテーブルの向かいに座るポップ(大)から顔をそむけ続けたまま、取り敢えずといったように返事をした。せっかくヒトが大事な休憩時間をゆっくり味わおうとしてるのに、無粋だわ!と云う抗議のつもりで。 「じゃあ、俺がなんつったか言ってくれよ。」 そこで初めてレオナはポップに視線をむけた。 「…いつもと同じコト、でしょう? そして私の答えもいつもとおんなじよ、ダメ。やりなさい。 それは君へのペナルティーなんだから!」 それだけ言うとレオナはふたたび、この短い休息の時間にひたろうと努めた。 「だから!俺じゃねえっつてるだろうが!」 バンっと、ポップはテーブルを強く叩くと、その上に積みあげられていた書類の束が崩れ一部が床に舞い落ちる。 「ちょっとポップ君、うちの重要書類を落とさないでくれるー?」 レオナは空を見上げたまま注意した。 …レオナは頑ななまでにポップを見ようとしない。 何故、ここまでポップを視界にいれようとしないのか。確かにいままで何度も繰り返してきた押し問答がうっとおしいのもある、が、実は違う。 彼女が本当に見たくないもの、…それは紙の束。 それも、いま振り返れば目の前にあるだろう、書類が山になったようなヤツだったりする。 「ポップ君わかってるでしょうけど彼には責任能力ないでしょ、だから君が代わり。 その書類を片付けるまでお休みはあげられないわよー。」 「そりゃアレに責任とらせる訳にゃいかねえのは判る! だけどなッ、姿がそっくりだってけでアイツがやった事でおれに文句がくる。あげくの果てに姫さんの仕事の一部まで押し付けられる!!どーゆー了見だ。 たまったもんじゃねえ…!」 半分泣きそうな情けない顔をしてポップはテーブルにつっぷした。 そう!これら紙の山は本来ならばレオナがこれから処理すべき立案や懸案の書類達なのである。 そしてレオナがポップ(小)のやった悪行の数々(ぬいぐるみにキックしたり、ケーキに小さな人型が残ってたり、花壇のお花を摘んじゃったりetc...)をポップが代わって罰を受けなさいと無理矢理まかせたものでもある。 これらの中には本気でできるだけ目を背けておきたくなるような厄介な物も、多い。 「…文句言うくらいだったら自分で処理しろよ〜。」 うんざりした声をポップはもらす。 「…だから書類落とさないでって、ポップ君…。」 うんざりしてるのは自分の方だとレオナは嘆きたかった。 忙しい忙しい忙しい、レオナは本当に忙しかった。少しでも自分に掛かる負担を減らそうと、各人の能力に合わせて仕事を割り振り、ようやく確保しているいまのこの僅かで穏やかな時間を満喫していたいのに。 目の前には見たくもない紙紙紙、紙の山。 『嫌がらせとしか、思えない…。』 ふたりがお互いにそう思ったその時だった。 バターンッ!! 「失礼します、レオナ姫!」 血相を変えて部屋に飛び込んできた人影に、ポップとレオナはひどく驚いた。 ――メルルだった。 よほど急いで走って来たのだろう。メルルはすっかり息を切らせ倒れ込むようにテラスへ入ってきた。 「どっどうしたのメルル!?」 常には美しく背に流れ落ちている黒髪もいまはみだれ、いつもの落ち着いた彼女らしくない取り乱した姿にふたりはあっけに取られた。 「何かあったのか?あー、ほら落ち着きなって。」 取り敢えずメルルに椅子をすすめたポップだったが、 「あ、ああ…大変なんです、大変…あぁなんてこと!」 しかし、かなり混乱しているらしいメルルは戸惑うような言葉を繰り返しもらすばかりで、いったい彼女が何を言おうとしているのか判らない。 「メルルだから落ち着きなさいって〜。 どうしたの?ゆっくり話してちょうだいよ。ね? ほら…お茶飲む?」 うろたえるメルルをなだめようとレオナが話かけると、メルルは堰をきったように話し始めた。 「あぁ、アァ!! ポっポップさんが、ポップさんが危ないんです!黒い影…っ!大変なんです、わたし…”見て”しまって…。」 「お、おれぇ??」 隣に立つポップにすがって半分叫ぶように訴えた。 「ポップさんはポップさんなんですが違うんです!」 メルルは首を打ちふりさらに激しく言いつのる。 「ポップさんなら多少の事でもなんとかできるでしょうけど、ポップさんは無理です…何とか助けてあげないと…!嗚呼なんてことッ!!」 「はィ〜?」 ポップは心底あたまを抱えた。矛盾してる。いかん、おれの方が混乱してきた。 「ですから、ポップさんが危ないんです。 助けてあげないと駄目なんです、力を貸して下さい!ポップさん、レオナ姫!」 そこで漸くレオナはこの占い師がなにを言わんとしているかを理解した。 ひとに判るよう説明できない今のメルルもメルルだがこの場合、根本的な問題で責任をとるべきはあの、ふたり。レオナはひそかに呟いた。 『お恨み申し上げます。』 いつもは自分もそのネタで楽しんでいるのも棚にあげて。 「もうっややこしい! メルル。あなたが危険だと感知したのは今ここにいる、人間の大きい方のポップ君じゃなくって!小さいアバン先生の所の、メッセンジャーのポップ君のことなのね!?」 「あっハイ、そう!その通りです!!」 やっぱりそうか…嫌だわ、あたま痛くなってきた。 レオナが天を仰ぎみたとき、北の空から一閃の光の矢、が向かって.. ドオォンッ! 「「ル、ルーラぁ〜ッ?!」」 「…つまり、アバン先生とメルルの話しを統合すると、あのポップ君(大)そっくりのちいさいポップ君が…いなくなったと…。」 ルーラの光から現れたのはアバンとマトリフだった。その音にパプニカの三賢者や他のアバンの使徒らが駆け付け、いまやこの部屋は急遽結成されたおそらく人類史上最強の捜索隊の会議室となっている。 「しかも、いつものようにフラフラどっか飛びまわってるんはでなくて、掠われた可能性が高いってことですか...。」 「そうなんですよ、レオナ姫。 あのポップ(小)は一応わたしの使い魔のようなものですからね、遠くにいても呼べばなにかしらの反応が返ってくるものなんですが…それが無いと云うことは。」 「家出じゃなけりゃ、誰か捕まえられた。てこったな。 そこの嬢ちゃんもポップ小の危険を感知してるしなあ。」 アバンの言葉をうけてマトリフが続けた。 「はい...。先程から小さいポップさんの居場所を探っているんですが」 メルルは手のひらの中で転がるふたつの小石をじっと見つめながら言葉を紡ぐ。 「〜〜〜とにかく行動を起こすしかないぜ。こうだらだら話ててもラチがあかねぇ。」 こういった会議的なものが苦手なヒムがすぐにも部屋から飛びださんばかりに立ち上がって言う。 「そうね、ヒムの言った通りかもしれないわ。」 しばらく考えていたレオナは静かに呟くと、立ち上がり威儀を正して言い放った。 「アポロ、マリン、エイミ! これはカール王自ら、たっての依頼です。 あの小さいポップ君はカール国王の親書も運ぶ重要な存在、…私も手伝います。 三賢者達に命じます!私が留守の間、執務を代行し、戻るまで国政が滞りなくあるように なさい。その為の権限を与えます!」 『やった!サボれる!!』 そんなレオナの心の叫びは、彼女がまとう王者の風格によって巧みに誤魔化され、現代において最上級の魔法使いポップでも長年彼女に仕えてきた臣下たちにも聞こえるはずはなく…。 |
メッセンジャー。 起承転結でいうところの承、またの名を 『威厳に満ちた脱走手段。』 レオナ姫はお仕事から遁走しました。 ポップさんご苦労さまです、虫といいレオナといい 迷惑な限りですな!(笑) by.かつら |
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**12月17日**
マトリフ印の飴さんですよー!
きゃーJINくんすてきーvありがとーvv
by.かつら
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**12月18日**
本日、続き物。
絵からリンク飛びますとびますっ。
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**12月19日**
どうしてくれるの責任とんなさい!
・・・・ってよう姫さん・・・おれじゃねえし。
見てよ痛そうでしょかわいそうでしょ!連帯責任!同じ顔でしょ!
・・・・・・・それにについては先生に言ってくれよなー・・・。
言えるわけないでしょそんなこともわかんないの?
・・・・・・・・・・・責任ってナニよ、ベホマまでもかけろって?
ばっかじゃないの?ぬいぐるみよ綿と布よ直してみなさいよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(うん、綿と布は痛がったりもしねえのよ姫さん)何しろって?
あの書類片付けて?
ぬいぐるみ関係ないじゃん。
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**12月20日**
* * メッセンジャー/3 * * 時は数時間ほど巻き戻る。 「おかしのスッキ〜なポップ君〜」 問題の、魔道生物はその頃。 「ひとりだけでもいそいーっそとぉ〜♪」 のんきに歌いながらふよふよカール城下の森を散歩していた。 彼はいまハッピーだった。フシアワセな彼が存在するときなど空腹な時しかないといっても過言ではないのだが、とにかくまぁ幸せ空気満載で浮いていたわけである。 ポカポカ陽気に爽やかな草木のにおい、さっき食べたあまーいカボチャのパイ。いまは満腹だけどそれでも思い出せばよだれがあふれてくる味だったなあ。ああっこれをシアワセと言わずなんと言う!それにしても今日のおやつはなんだろう? ……満腹だったはずの彼のお腹はどうやら思い出したパイの味によって余裕が出来たらしい…。ポップはおやつと、さらに晩ご飯のお菓子を思ってうっとりとヨダレをこぼした。 かれの保護者たちがいまこの場にいたとすれば、正しく容赦のないツッコミを入れてくれただろう。ましてや、当然の事ながらこれから起こる悲喜劇は回避されていたはずであったのだが...。 しかし、無理を言ってはいけない。彼らは此処には居ず、そしてコトは起こってしまうのだから。 ポップはご機嫌に空中4回転捻り(ポーズ付)をキメると歌の続きと散歩を再開することにした。 「かどの菓子屋へぼんじゅー♪…う?」 しばらく森の小路を突き進むと、彼は動きを止めた。事件の発端となるあるモノを見つけてしまったのだ。 「お、おおおぉっ!!うまそー♪」 それは、実に見事なケーキセットであった。 燦々とおちる太陽の光をうけ輝くゼリーがけされた宝石のようなフルーツといい、ふんわりと甘くやわらかそうなスポンジといい、それらをのせた陶器にもきちんと気が配られておりたっぷりの生クリームの白色と地面の緑のコントラストも鮮やかで美しく、さあ今すぐわたしを食べて下さいっと主張していた。ようにポップは思った。 「いっただっきまーす!!!」 ポップは食らいついた。 そこには遠慮の『E』の字もなかった。 日頃からあれほど山盛り口を酸っっぱくして拾い食いはするなと言われ続けていたにも関わらず。である。 ひとけのない路のど真ん中に置かれたケーキとお茶…深く考えずとも明らかに不審だ。 それでも彼は、食べる。そえられた銀のフォークも使わず全身をもって果敢にケーキに挑み、食べ続けた。彼のこんな雄姿をみればきっといつも文句を言っているポップ(大)もただ押し黙るだけであろう、同じ姿だなんて…情けなくて涙もでない。じつは書いてる私も以下同文。 そうして、無心で食べ続けていたポップはまたしても背後から忍び寄るものに気が付かなかった。彼がその存在を意識したのは、突然くさむらから躍り出た人影がふるい襲いかかった白いなにかが自分とケーキとを隔て、自分の命を繋ぐ愛しい大事な甘味から引き離されてからだった。 「ふわぁーはーはーはーはー!捕まえたぞっとうとう捕まえたアァ!!」 襲撃者は高らかに笑い、宣言した。 その男の腕は確かだった。しゅぱっと空気を切る音と共に地面近くにいるポップをさらい、手にしていた『捕虫網』の口をしっかり握り締めるのも忘れなかった。 「んぐぐっ……げほ!っなんだ!?てめえ誰だ何しやがる!つか、おれは虫じゃねえー──!!!」 この網はなんだあああ!! ポップは虫取り網によって唐突に囚われの身となってしまった。なんと言うことであろうかっ。むせながらもポップは網の中で暴れもがき、悪態をついた。 「ふわぁーはーはーはーはーあー!噂通りだな…おまえがカール国王の使い魔、ポップか。 ふふふっこれで我が野望への道が一歩開いたッ!」 にやり…悪役らしい笑みを浮かべた男がつと手をポップに近づける。 「それでは我が居城にお連れしよう。えいっ。」 びしいッ 「はう!」 スローモーションで迫り来る中指。 おでこに受けた強烈な痛みによりポップの意識は、そこで途切れた…。 |
メッセンジャー。 本日にて虫週間は終了。 大遅刻ぶちかまして申し訳ありませんー―! 零時定刻更新がモットーなのに。うう! その上やっぱり終わりませんでした。 実際に虫を書いてると涙が出ます あまりにも…お馬鹿で。 はたして誘拐犯は誰なのか! つか野望ってなんなのさ! 謎を残したまま、つづく。 (ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!) by.かつら |